民法第416条「損害賠償の範囲」についての解説

不倫をされたら慰謝料請求をしたい!と意気込む人も多いと思います。
しかし、もし裁判まで損害賠償問題が長引いた場合民法の定めによって賠償請求額が元々請求していた額よりも高くも低くもなりえます。

どのように定められているのか、一度確認してみて下さい。

第416条「損害賠償の範囲」の条文

(損害賠償の範囲)
1 第四百十六条 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。

2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

参照:電子政府の総合窓口e-Gov

第416条「損害賠償の範囲」の解説

民法第416条ではどのくらいの損害賠償を請求できるのか、その範囲を定めています。
債務不履行責任によって賠償されるものに対して定めており、不法行為責任の損害範囲の確定においても類推適用されるものとしています。

第2項では特別な事情によって生じた損害である場合、それを予見することが出来たと判断された場合に賠償を請求することができるというものです。

損害賠償の範囲として認められる基準

損害賠償(慰謝料請求)を確実にしたいのであれば、相手の不貞行為を第三者にもその事実があったことを認めさせる必要があります。
裁判所ではおおよその基準となる相場が決められており、不倫が原因で離婚した場合は200~300万、夫婦関係を継続させた場合は50~100万とされています。

裁判上では相手の資力や年齢、社会的地位などが考慮されます。
そのため、協議や示談などで高額な慰謝料を請求した場合は裁判で改めて金額が見直され、慰謝料額が少なくなることもあります。

損害賠償の範囲に関する判例

平成21(受)733
損害賠償請求事件
平成23年4月26日

主 文
原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

理 由
上告代理人岡田隆志の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)
について

1 本件は,上告人の開設する a 病院(以下「上告人病院」という。)の精神神
経科に通院し,上告人病院のA医師(以下「A医師」という。)の診察を受けた被
上告人が,上記診療時において,過去のストーカー被害などの外傷体験を原因とする外傷後ストレス障害(以下「PTSD」という。)に罹患していたにもかかわら
ず,A医師から誤診に基づきパーソナリティー障害(人格障害)であるとの病名を
告知され,また,治療を拒絶されるなどしたことにより,同診療時には発現が抑え
られていたPTSDの症状が発現するに至ったと主張して,上告人に対し,診療契
約上の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。

2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,昭和38年生まれの女性で,平成4年から平成15年まで山
形県内の町役場に勤務していた間に,昔の友人である男性から長年にわたってスト
ーカーまがいの行為をされ,自宅で首を絞められるなどの被害を受けたほか,平成
12年3月には,宴席で勤務先の男性職員から身体に触れられるなどのセクシュア
ルハラスメントを受けたことがあった(以下,これらの被害を「本件ストーカー等
の被害」という。)。

(2) 被上告人は,平成15年1月,頭痛を訴えて b 市立病院の精神科において
診察を受け,以前に本件ストーカー等の被害を受けたこと,ストレスがたまってく
ると周囲の人に当たったり,泣き叫んだりすることなどを話した。被上告人は,抑
鬱神経症と診断され,薬物治療が開始されたが,同年3月,町役場を退職して東京
に戻り,看護師としてアルバイト勤務を始めた。

(3) 被上告人は,同年11月及び同年12月,頭痛を訴えて上告人病院の精神
神経科を受診し,B医師(以下「B医師」という。)の診察を受けた。
被上告人は,初診時に,山形県の病院で抑鬱神経症であると診断されたこと,1
0年くらい前にストーカーのようなものがあったことなどを話し,B医師は,被上
告人が鬱状態にあると診断し,精神・情動安定剤を処方した。

(4) 被上告人は,平成16年1月9日,上告人病院の精神神経科において,B
医師から引継ぎを受けたA医師の診察を受けた。
被上告人は,頭痛を訴えるとともに,平成15年11月の診察時に鬱状態と言わ
れてショックを受けたなどと話したが,A医師は,主訴である頭痛についての精査
を優先させることとし,被上告人に対し,器質的な要因の有無を確認するために脳
神経外科を受診するよう指示し,同科において必要性が認められた場合にはMRI
検査を受けることになる旨を説明した。しかし,被上告人は,これを聞き入れず,
早くMRI検査を受けたいとして,強引にA医師にMRIの検査依頼をしてもらっ
た。

(5) 上告人病院の脳神経外科の医師は,その後,MRI検査及び診察の結果を
踏まえて,被上告人につき筋緊張性頭痛との診断を行い,A医師に対し,その診断
内容と同科においても経過観察をする旨を連絡した。

(6) 被上告人は,平成16年1月30日,上告人病院の精神神経科において,
A医師と面接をした(以下,この面接を「本件面接」という。)。本件面接に至る
経緯及びその内容は,次のとおりである。
ア 被上告人は,同日の診療受付終了時刻の前頃,上告人病院の精神神経科の受
付に電話をし,受付時間に少し遅れるが診察してほしいと述べ,応対した看護師か
ら,用件が緊急ではなく検査結果の確認のみであるなら次回にまうなどの症状を訴えるとともに,かつて本件ストーカー等の被害を受けたこと,
上告人病院の初診時に鬱病と言われてショックで頭から離れないことなどを述べ,
同日の診療録には,C医師によるPTSDとの診断が記載されたが,被上告人がA
医師の本件言動について話した旨の記載はない。被上告人は,その後も1週間に1
回程度 c クリニックに通院し,初診時と同様の症状や山形でいろいろあったことを
思い出すことなどを訴え(以下,被上告人が c クリニックで訴えた症状を「本件症
状」という。),C医師の問診に対し,過去の体験の一つとして,本件言動に対す
る怒りを述べるなどした。

(8) PTSDについて広く用いられている診断基準の一つであるDSM-Ⅳ-
TR(DSMは,アメリカ精神医学会が発表しているもので,「精神疾患の診断・
統計マニュアル」などと訳されている。)によれば,PTSDの発症を認定するた
めの要件の一つとして,「実際にまたは危うく死ぬまたは重傷を負うような出来事
を,1度または数度,あるいは自分または他人の身体の保全に迫る危険を,その人
が体験し,目撃し,または直面した」というような外傷的な出来事に暴露されたこ
とを要するとされており,また,文献の中には,PTSDの症状が,その原因とな
った外傷を想起されるもの,人生のストレス要因又は新たな外傷的出来事に反応し
て再発することもあること,同一ないし類似の再外傷体験がPTSDを発症させや
すいことなどを説くものがある。

3 上記事実関係等の下において,原審は,本件面接におけるA医師の被上告人
に対する本件言動は医師としての注意義務に違反するものであり,本件症状はPT
SDの発症と認められるとした上,被上告人は,過去に本件ストーカー等の被害を
受けていたことから,本件面接時において,PTSDを発症する可能性がある状態
にあったところ,A医師の本件言動により,その主体的意思ないし人格を否定され
たと感じたことから,これが心的外傷となり,そのとき保持されていたバランスが
崩れ,過去の外傷体験が一挙に噴出してPTSDの症状が現れる結果となったと判
断して,A医師の本件言動と被上告人の本件症状の発症との間に相当因果関係があると認め,被上告人の請求を一部認容した。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
前記事実関係等によれば,A医師の本件言動は,その発言の中にやや適切を欠く
点があることは否定できないとしても,診療受付時刻を過ぎて本件面接を行うこと
になった当初の目的を超えて,自らの病状についての訴えや質問を繰り返す被上告人に応対する過程での言動であることを考慮すると,これをもって,直ちに精神神
経科を受診する患者に対応する医師としての注意義務に反する行為であると評価するについては疑問を入れる余地がある上,これが被上告人の生命身体に危害が及ぶことを想起させるような内容のものではないことは明らかであって,前記のPTS
Dの診断基準に照らすならば,それ自体がPTSDの発症原因となり得る外傷的な
出来事に当たるとみる余地はない。

そして,A医師の本件言動は,被上告人がPTSD発症のそもそもの原因となった外傷体験であると主張する本件ストーカー等の被害と類似し,又はこれを想起させるものであるとみることもできないし,また,PTSDの発症原因となり得る外傷体験のある者は,これとは類似せず,また,これを想起させるものともいえない他の重大でないストレス要因によってもPTSDを発症することがある旨の医学的知見が認められているわけではない。

なお,C医師は,平成16年2月10日の初診時に,被上告人がPTSDを発症していると診断しているが,この時の被上告人の訴えは平成15年1月に b 市立病院の精神科で診察を受けた時以来の訴えと多くの部分が共通する上,上記初診時の診療録には,A医師の本件言動を問題にする発言は記載されていない。

以上を総合すると,A医師の本件言動と被上告人に本件症状が生じたこととの間
に相当因果関係があるということができないことは明らかである。被上告人の診療
に当たっているC医師が,A医師の本件言動が再外傷体験となり,被上告人がPT
SDを発症した旨の診断をしていることは,この判断を左右するものではない。

5 以上と異なる原審の判断には,法令の解釈を誤った違法があり,この違法が
判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴
部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,同部分に関する被
上告人の請求を棄却した第1審の判断は正当であるから,同部分に関する被上告人の控訴を棄却する。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大谷剛彦 裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫 裁判官
岡部喜代子)

今回紹介している判例は不貞行為のものではありませんが、損害賠償請求の範囲を決めるにあたってとても分かりやすい判例となっています。
どのような内容となっているのか、分かりやすく解説していきます。

A医師VS患者の判例のあらすじ

まずこの判例では精神科医の医師による言動により、患者がPTSD(外傷後ストレス障害)になったため患者が医者に対して賠償請求をした事件です。

患者は頭痛を訴えており精神科で、過去に知人から首を締められる、ストーカー行為を受ける等してストレスがたまると泣き叫んだり人にあたったりすると相談しました。
当初担当したB医師には抑うつ神経症であると診断されました。
その後A医師に引き継ぎ、頭痛解明のため検査したところ筋緊張性頭痛と判断しました。

患者は緊急でないにも関わらず、病院の診療受付終了時刻前ごろに病院に電話をし面接を求めました。
A医師は検査結果を伝えるだけという条件で患者を受け入れ、検査結果を伝え精神神経外科ではなく脳神経外科を受診するように指事しました。

しかし患者はそれに応じず、自らの症状についての訴えや質問を繰り返しました。
A医師はこれに答え、患者には人格に問題があり「人格障害」と発言。
それでも質問を繰り返す患者に話は終わっているため帰るように告げました。

その後患者は妹の友人の精神科医であるC医師の診療を受けました。
患者はかつてのストーカー等の被害や診察当初にうつ病といわれショックで頭かあら離れないと述べC医師によりPTSDとの診断が記載されました。

これにより、患者はA医師との面接まではおさえられていたPTSD症状が発現するのに至ったとしてA医師に損害賠償を求めました

なぜA医師は損害賠償請求を逃れたのか

まず患者が訴えている過去のトラウマについて整理しておきましょう。

  • ストーカーまがいの行為
  • 首を締められる
  • セクシャルハラスメントを受ける

これによってストレスがあたまると泣き叫んだりものに当たるなどしています。
PTSDは命の危険を感じたりするなど強い恐怖感をともなう経験をした人に起きやすい症状となっています。
心にトラウマとしてのこり、フラッシュバックのように突然怖い体験を思い出したり、不安や緊張、めまいや頭痛があるとされています。
アメリカの精神医学会が発表している精神疾患の診断・統計マニュアルではPTSDの発症の原因の一つとして、生命を脅かすような過去と同一または類似の再外傷体験がPTSDを発症させやすいとしています。

しかしA医師の言動はやや適切を欠く点があるものの、患者が訴えている過去のトラウマとは類似しておらず、さらに生命身体に危害が及ぶことを想起させるような内容のものではありません。

また、診療受付時間を過ぎて面接を行うこととなった条件を破り、自らの症状について訴えたり質問を繰り返す患者に対しての過程での言動であることが考慮されています。

さらに何度かC医師のもとに通った時、問診に対して過去の体験の一つとしてA医師の言動への怒りを述べるなどはあったものの、PTSDと診断された日の診療録にはA医師の言動を話した記録はありません。
加えてC医師との診察時の患者の発言や訴えは、最初に受けたB医師との問診時とほぼ内容が共通しています。
つまりC医師によりPTSDと初めて診断されたものの、B医師・A医師両方がそう診断していなかっただけでA医師と面接する前からPTSDを発症していたことが考えられます。

このことからA医師の言動がPTSDを発症させたとは判断出来ず、損害賠償の請求は取り消されました。

損害賠償を請求する時に気をつけておくこと

この判例ように、損害賠償はその相手に対して請求するのが当たり前、と思いがちになるかも知れませんがその時の相手方の状況をよく知っておかなければなりません。

例えば、不倫相手に損害賠償請求をしようと思っても、不倫相手が肉体関係をもった相手が既婚者だと知らなかった場合は損害賠償請求が出来ないこともあります。

確実に損害賠償請求をしたいのなら配偶者の方に請求したほうがいい場合もあります。
自分だけが被害者…と思わず一度冷静になって不倫相手の立場がどんなところにあったのか判断してから損害賠償請求をしましょう。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。